ほんとうにあった怖い話

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    2014年08月

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    原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「なつのさん」 2011/04/02 20:55

    八月。開いた窓から吹きこんでくる風と共に、微かに蝉の鳴き声が聞こえる。時計は午後六時を回ったところ。
    陽はそろそろ沈む準備を始め、ラジオから流れて来る天気予報によれば、今夜も熱帯夜だそうだ。
    僕を含め三人を乗せた軽自動車は、川沿いに伸びる一車線の県道を、下流域から中流域に向かって走っていた。
    運転席にS、助手席に僕、後部座席にK。いつものメンバー。
    ただ、Kの膝の上にはキャンプ用テント一式が入った袋が乗っていて、
    車酔いの常習犯である彼は身体を横にすることも出来ず、先程から苦しそうに頭を若干左右に揺らしている。
    僕らは今日、河原でキャンプをしようという話になっていた。
    Kが持つテントの他にも、車のトランクの中には食料や寝袋、あとウィスキーを中心としたお酒等も入っている。
    夜の川へ蛍を見に行こう。
    言いだしっぺはKだった。何でも、彼は蛍のよく集まる場所を知っているらしい。
    意外に感じる。
    Kはオカルティストで、いつもならこれが『幽霊マンションに行こうぜ』 やら、『某自殺の名所に行こうぜ』となるのだけれど、
    今回はマトモな提案だったからだ。
    「蛍の光を見ながら酒でも飲もうぜ」とKは言った。
    反対する理由は無い。でもそれだと車を運転する人が、つまりSが一人だけ飲めないことになる。
    「お前だけジュースでも良いだろ?」と尋ねるKにSは、「お前が酒の代わりに川の水飲むならな」と返した。
    だったら、不公平のないよう河原で一泊しようという話になった。キャンプ用品はSが実家から調達してくれた。

    川の流れとは逆に上って行くにつれ川幅は徐々に狭くなり、
    角の取れた小さく丸い石よりも、ごつごつした大きな岩が目立つようになってきた。
    D字状に旧道と新道が別れているところに差しかかる。
    山沿いに大きくカーブを描いている旧道に対して、新道の橋はまっすぐショートカットしている。
    車は旧道の方へと入って行った。

    川を跨ぐ歩行者用の吊り橋のそばに車を停める。吊り橋の横には河原へと降りる道があった。
    僕とSの二人で手分けして荷物を河原まで下ろす。その荷物の中には、車酔いでダウンしたKという大荷物も含まれていた。
    川はさらさらと音を立てて流れている。川幅は十四,五メートルといったところだろうか。
    対岸はコンクリートの壁になっており、その上を県道が走っている。
    時間が経ち、陽の光が弱くなるにつれ、透き通っていたはずの緑は段々と墨を垂らしたように黒くなってゆく。
    蛍の姿はなかった。出て来るのは完全に暗くなってからだと、ようやく回復したらしいKが言う。
    「雲も出てるし、風邪もねえし、絶好の蛍日和じゃん」
    蛍は、自分達以外の光を嫌うものらしい。それがたとえ僅かな月明かりでも。
    「Kって蛍に詳しいん?」
    「蛍だけじゃねえよ。俺は昆虫博士だからな。なにせヤツらは、そもそもは地球外から降って来た宇宙生物って噂だし」
    ああなるほど、と僕は思う。

    そんなこんながあってから、三人でテントを張った。
    河原では地面にペグが打ちこめないため、テントを支えるロープを木や岩などに結び付ける。
    五~六人の家族用のテントなので、中は結構広い。
    そのうちKが、小型ガスボンベに調理用バーナーを取り付けて鍋を置き、湯を沸かし始めた。
    テントを張る時の手際を見た時も思ったけれど、Kは意外とアウトドア派なのだろうか。
    Sに尋ねてみると、「……おかげでガキの頃は色々連れ回された」と嘆いてから、「いや、今もだな」と付け加えた。
    それからKは、大きな石を移動させて大雑把な囲いを作ると、周りの木々を集めて組み立て、たき火を起こした。
    僕も手伝おうと薪を拾ってくると、「そりゃ生木だお前。煙が出るだけだぞ」と笑われた。

    夕食が完成した頃には陽はだいぶ落ちて、辺りはオレンジ一色だった。
    夕食は、ぶつ切りにしたキャベツやニンジンや玉ねぎやナルトや魚肉ソーセージを一緒くたに放りこんだ、
    ぞんざいなインスタントラーメン。
    でも見た目はアレでも味は中々で、鍋はすぐに空になった。
    ラーメンが無くなると、紙コップにウィスキーを注いで、三人で乾杯した。
    残ったキャベツやソーセージをつまみに。Sは何もなしで飲んでいた。
    たき火の火に誘われてか、小さな虫たちがテントの周りに集まって来ていた。
    蠅を一回りでかくしたような虫に、腕や足などを何箇所か噛まれて痒い。
    「テジロちゃんだな」とKが言った。
    何でも、捕まえてよく見ると、前足の先が白いんだそうだ。だから手白。
    「よっしゃ、捕まえてみるか?」
    「……蠅を見に来たわけじゃないでしょうが」
    「そりゃそうか」
    僕らは蛍を見に来たのだ。
    「まだ出てこないね」
    時刻は午後八時を回っていた。辺りはもう十分暗い。
    「そろそろだろーな」
    そう言うとKは立ち上がり、空の鍋に川の水を汲んできて、たき火の上にそれをかけた。
    火が消え、辺りは目に見えて暗くなる。雲が出ていて月明かりもない。
    辛うじて、テントの入口あたりに置いておいたガスランタンの小さな光だけが、視界を奪わないでくれていた。
    暗闇の中、僕らはしばらく何も喋らず、黙ってウィスキーを胃袋に放りこんでいた。

    「……そう言えば、お前らには話してなかったっけか」
    沈黙を破ったのはKだった。
    「この辺りじゃあな、数年に一度、丁度これくらいの時期に、蛍が大量発生するんだとよ」
    興味を引かれた僕は、「へえ」と相槌を打つ。
    「数年置きとかじゃなくて、本当にランダムなんだそうだ。研究者の間でも確かな原因は分かってない。
     ……でもな、この辺りじゃ、密かに噂されてる話があってな」
    Kの表情は分からない。輪郭は辛うじて分かるけれど、この明かりでは互いの表情までは見えなかった。
    「この川な。下流はそうでもないが、中流辺りだと突然深くなる場所とか、渦を巻いてる箇所とかあってだ。
     けっこう溺れて死ぬ奴がいるんだわ。近隣の小学生とか特にな。
     もちろん、そういう場所は遊泳禁止には指定はされてるんだが、……ま、子供の好奇心にゃ勝てんわな」
    僕はふと、自分のコップが空になっていることに気付いた。ウィスキーのビンを探したけど、見えない。
    「まあ、そうは言っても、数年に一人か二人だけどよ。
     でも、重なるらしいんだよな。水死者が出た年、蛍が大量発生する年。
     ……ああ、わりいわりい。ウィスキー俺が持ってるわ」
    Kが僕の方にビンを差しだし、僕はKに紙コップを差しだす。
    タタ、と音がして、辛うじて白と分かるコップに、何色か分からない液体が注がれた。
    「……今年は、その、溺れた子がいるん?」
    一口飲んで、焼けるような喉の刺激が去ってから、僕は尋ねる。
    Kは「うはは」と笑って、「そんなこたぁ、俺はシラネー。ここには蛍を見に来ただけだからな」と言った。
    「んでだ。その話には、もう一つ不思議なことがあってな」
    Kが続ける。
    「日本で見かける蛍ってのはさ、ゲンジボタルかヘイケボタル、大体この二種類でな。
     ゲンジボタルの成虫が出るのは、五月から六月、遅くて七月上旬にかけてだから。
     そうすると、八月のこの時期に出るのは、ほぼ年がら年中見られるヘイケボタルってことになる」
    Kは本当に昆虫に詳しいらしい。
    こういう風に、なるほどと思える話をKから説明されることは珍しいので、何だか違和感を覚える。
    いつもならそういう解説はSの役目なのだけれど、彼はさっきからつまみも挟まず静かに飲んでいる。
    「でもヘイケボタルってのは、集団発生はしねーんだよ。
     年がら年中見れるってこたぁ、成虫になる時期が同時でないってことだ。
     逆に、皆そろって成虫になるのは、ゲンジボタルの方なんだけどよ。
     でも、ゲンジはこの時期にゃあ交尾終えて死んでるし」
    酔った頭でも何となく理解出来た。
    つまり、Kはこう言いたいのだ。
    「……つまり、大量発生するその光は、ホタルじゃないかもしれない、ってこと?」
    「おうおうおう!何だ、察しがいいじゃねーか。……
     ま、普通に異常発生したヘイケボタルっつう可能性の方が高ぇだろうけどよ」
    「蛍じゃなかったら、なんなのさ」
    「シラネーよ。見たことねえし。でもまあ強いていやぁ、そうだな。……鬼火とか、人魂とか、怪火の類?」
    「……今年も見れると思ってるんじゃない?」
    「シラネーシラネー」
    そう言ってKは「うはは」と笑った。
    またオカルト絡みか。今日はただ蛍を見に来ただけだと思っていたのに。
    蓋を開けてみれば、やっぱりKはKだったということなのだろうか。
    その時、今までずっと沈黙を守っていたSが、ふと口を開いた。
    「出てきたぞ」
    その言葉に、僕はハッとして川の方を見やった。
    何も見えない。じっと目を凝らす。
    ちらと、青い火の粉のような何かが視界の隅に映った。それを区切りに、河原に無数の青白い光が浮かび上がる。
    突然、辺りがさらに暗くなった。KかSのどちらかが、テント前のガスランタンの光を消したからだろう。
    おかげで目の前の光がよりはっきりと見えるようになった。
    光は明滅していた。それも飛び交う全ての光が同じタイミングで消えては光る。
    それはまるで、無数の光全体が一つの生き物のように思えた。
    時間の経過とともに、光は更に数を増していった。河原を覆い尽くすかのように、僕らの周りにも。
    思考も感覚もどこかへ行ってしまい、目だけがその光を追っていた。
    度の強いウィスキーのせいで幻覚を見ているんじゃないかと疑う。それほど幻想的な光景だった。
    雲に隠れた星がここまで降りてきたかのような、そんな錯覚さえ抱く。
    「もの思へば、沢の蛍もわが身より、あくがれ出づる、魂かとぞ見る……」
    ふと、我に返る。Sの声だった。
    「……何それ?」と僕が訊くと、「和泉式部」とSは言った。
    「誰それ」とさらに尋ねると、溜息が返って来た。
    「お前、文系だろうが」

    それから数時間もの間。僕らはただ、目の前の星空を眺め続けた。飽きるという言葉すら浮かばなかった。
    時間はあっという間に過ぎた。
    その内に少しずつ数が減ってきて、時刻が夜十時を過ぎた頃、光は完全に沈黙した。
    Kがいったん消した焚き火を組み直し、火をつける。
    つい先ほど見ていた光とはまた別の火の光。ぱちぱちと薪が燃えて弾ける音がする。
    「昔の人は、人間に魂があるとすれば、それは火の光や蛍の光のようなものだと考えたんだが……。
     今のを見れば、まあ分からなくもないな」
    手の中で空の紙コップを弄びながら、Sがぽつりと言った。
    あの数は大量発生と言えるのだろうか。だとすれば、今年も誰かが川で溺れて亡くなったのだろうか。
    感動と共に、僅かな疑問が頭をよぎる。
    「……あ、そう言えばKって、虫取り網持ってきてたよね。使わんかったん?」と僕はKに尋ねる。
    おそらくは、あの光が人魂か虫かを確かめるためには、捕まえるのが一番手っ取り早いということで持ってきたのだろう。
    「ああ、忘れてたな……。ま、いいや。ありゃ人魂とかじゃねえよ。蛍だ。集団同期明滅してたし」
    蛍だった、とKは言いきった。
    「ああ、あの同時に消えたり光ったりしてたやつ?」
    「そ。ありゃ蛍の習性だからな。ああやって、同時に光ることで雄と雌を見分けてんだよ」
    「ふーん」
    「……あーあ、でも俺ぁてっきり、今までに死んだ水死者の魂が、飛び交ってんだと思ってたんだけどなあ」
    ただ、そういうKの顔に落胆の色はなかった。あれだけのものを見たのだ。満足しない方がおかしい。
    僕たちはそれから焚き火を囲んで少し話をして、三人でウィスキーを二本ともう半分開けてから、寝ることにした。
    興奮はしてたものの相当酔っていたので、熱帯夜にもかかわらず、すぐに眠りにつくことが出来た。

    次の日の朝。起きると、テントの中に残っているのは僕が最後だった。
    外に出ると、Sは河原の石に座って釣りを、Kは底が硝子になっているバケツを川に浮かべ、網を持って何かを探していた。
    その日は、すっきりと雲ひとつない天気だった。
    川の水で顔を洗ってから、釣りをしているSの元へと行ってみた。
    「釣竿なんか持ってきてたっけ?」と僕が尋ねると、「昨日、そこの茂みで拾った」と言う。
    じゃあ餌は何を使っているのかと聞けば、昨日の内にテジロちゃんを捕まえておいたので、それを使っているらしい。
    見せてもらうと、テジロは本当に手の先が白かった。
    ちなみにSはこの後、立派な岩魚を二匹釣るという快挙を成し遂げた。
    塩焼きにして昼飯になったのだけれど、すごくおいしかった。
    Kの元へ行くと、彼はゴリという名の小魚を捕まえようとしているらしい。
    ちなみに彼はこの後ゴリを十匹ほど捕まえ、それは昼飯の味噌汁の具になるのだけど、
    ゴリは骨ばっててとても不味かった。

    二人共元気なことだ。などと思いながら、僕は河原を行ける所まで散歩していた。
    その時、ふと足元に黒い昆虫の死骸が落ちていることに気がついた。
    十字の模様がついた赤い兜に、黒い甲冑。拾い上げてみると、それは一匹の蛍の死骸だった。
    そのまま持ち帰ってKに見せてみた。
    「おう。蛍だな」
    ちらりと見やりそれだけ言うと、Kはまた腰をかがめて水中に意識を戻した、かと思うと、
    がばと起き上がり僕の腕を掴み、もう一度その蛍の死骸を見やった。
    「ゲンジボタルじゃん……」とKは呟いた。
    「ゲンジボタルなん、これ?」
    「ああ、頭のところに十字の模様があるだろ。てっきりヘイケボタルかと思ってたけど。
     ……でも、何でこんな時期に出て来てんだコイツ。一,二月くらいおせぇのに」
    僕はもう一度、自分の手の中のゲンジボタルの死骸を見つめた。
    Kは「おっかしいな~」などと言いつつ、ズボンから携帯を取り出すと、何かを調べ始めた。
    おそらくインターネットで、ゲンジボタルの生態でも確認しているのだろう。
    「……あ?」
    しばらくして、Kが妙な声を上げた。携帯の画面をじっと見つめている。
    「……どしたん?八月でも出ますよってあった?」
    「いや、そうじゃねえけど。いや、これは俺も知らんかったわ」
    「だから何が」
    Kは開いた携帯の画面を僕に見せながら言った。
    「ゲンジボタルの学名だ。……『Luciola cruciata』 ラテン語で、『光る十字架』だとよ」
    頭部の辺りに見える黒い十字が見えるけれど、これが十字架なのだろうか。
    「……何を祝福してんのか知らんけど、溺れた奴が全員キリスト教でもねえだろうにな」
    そう言ってKは「はは」と小さく笑った。
    光る十字架。
    僕は昨夜の光を思い出す。
    ゲンジボタルが光る時期より一,二ヶ月遅れたこの季節は、子供たちが川で遊ぶ季節だ。
    そうして人が溺れて死んだ年だけ、光る十字架たちは飛び回る。
    全くの無関係なのだろうか、それとも。
    ふと、昨夜Sが口ずさんだ歌を思い出す。
    あの後、Sにあれはどういう意味かと訊くと、彼は面倒臭そうにこう言った。
    『恋心に沈む自分の魂を、蛍にたとえた歌だ』
    昔から、人は人間の魂を蛍の光に例える。
    僕は首を振った。僕には何も分からない。

    昼食が終わった後、僕らはテントを片付けて荷物を車に運び込んだ。
    出発する前にKが「ちょっと待ってくれ」と言い、半分残ったウィスキーの瓶を持って、吊り橋の上へと向かった。
    何をするのかと見ていると、Kは橋の上からウィスキーの瓶をひっくり返し、残っていた液体を全て川へと振りかけていた。
    「よ、待たせたな」
    戻って来たKに、何をしていたのか尋ねようかとも思ったけれど、止めておいた。
    Kは何も言わなかった。だったら、こっちから聞く必要もないだろう。

    車のエンジンがかかり、僕らは川を後にする。
    「いやぁ、でも、良いもの見たしね。楽しかった」
    走り始めた車内で、僕は本心を言った。
    「そうだな」と珍しくSも肯定してくれたので、「また機会があれば、行こうよ」と二人に提案してみる。
    「おう、そうか。だったら、次は山だな」とKが言う。
    「かなり遠いけどな。昔人喰いクマが出て有名になった山があってな」
    いやそれはちょっと勘弁してくれ、と僕は思った。

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    【全米が】なんか笑える霊体験3【テラワロス】

    749 :本当にあった怖い名無し:2007/10/23(火) 19:27:41 ID:k/AHBZXo0
    フランスに仕事で行った夫。(10年以上前) 
    ホテルで強烈な金縛りに遭い、汗ぐっしょりになりつつも恐怖と必死に戦ったという。 
    ベッドのそばにフランス人の女の子が現れた。 

    「俺は、その少女に、ケツが臭いと言われた」と憤る夫。恐怖よりもショックのほうが強かったようだ。 
    この10年「俺のケツは臭いのか?」と悩んだという。 
    「別に臭くないよ」と励ましても、「いや、霊が言うんだから間違いない」と言って聞かない。 

    最近、とある海外の心霊関係のネットで、
    『白人の少女が現れて、これ何?と宿泊客にたずねるホテル』が紹介されてた。
    そのホテルは名前こそ出ていなかったが、場所の特徴から考えて、夫が泊まったホテルに違いなさそう。 
    フランス語で『これ何?』は、カタカナに直すと『ケスクセ?』らしい。 

    まさか・・・ネタと思うなかれ、本当です。
    夫は「十年にわたる、ケツが臭いかもという見えない鎖から解き放たれた」と本気で喜んでます。 
    『俺が会ったのはやはり霊だったのか』という恐怖は、今の彼からは微塵も感じられません。 
    良かったね。

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    原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「なつのさん」 2011/03/27 17:38

    誘拐犯の女とその息子が、まだこの家の中に居る。
    すぐには理解できなかった。噛み砕いて、その言葉の意味をゆっくりと脳に染み込ませる。
    ようやく理解し、最初に出てきた感想は「そんな馬鹿な」だった。
    「そんなこと……」
    「無いと言い切れるか?お前、Kが言ってた、犯人の女が失踪する前に残した、遺書らしき手紙の内容覚えてるか?
     確かな情報じゃないかも知れんが、『息子の元へ行きます』って言葉は、『息子の居場所』を知っている者の台詞だ」
    「……何年も行方不明で、死んだものと思ったんじゃない?」
    「個人的な視点になるが、俺はそうは思わない。息子のために、白熱灯ならまだしも、部屋の窓を潰すような母親だぜ?」
    「でも、だったら……、行方不明は、狂言だったってこと?」
    「さあな。それは分からないな」
    「狂言なら、まさか、二人共生きてる……?」
    「いや。少なくとも息子は死んでるだろうな。だから、彼女は誘拐事件を起こすんだよ。
     動機については、警察の見立てで間違ってないと思う」
    いなくなってしまった息子への想いから、同じ年頃の男の子を誘拐しては、数日間だけ一緒に暮らす。
    息子と同じ部屋に閉じ込めて、息子と同じように会話をしようと話しかける。
    「つまり、だ。
     俺は、母親は何らかの理由で死んでしまった息子の死体を、
     どこかに隠し、周りには行方不明になったと伝えた、と考えてる。
     認めたくなかったのか、他の理屈が働いたのかは知らないがな」
    そして、一人に耐えきれなくなった母親は誘拐事件を起こす。
    息子の部屋で子供と接することで、自分の子供は生きていると思い込みたかったのだろうか。
    けれども、その行為を数回終えたところで悟ったのだろう。所詮、彼らは自らの息子じゃないのだから。
    「でもさ、何で、その二人の死体が『この家にある』 って分かるんよ?」
    「別に分かってるわけじゃない。ただの希望的確率論だ。
     自分の一人息子なんだから、少しでも傍に置いときたいと思うのが人情だろ」
    そしてSは壁を二度、コンコンとノックする。
    「……そして、だから、お前は今日ここに来たんだよ」
    「は……?」
    紙風船から空気が抜けたような間抜けな音が僕の喉から滑り落ちる。
    「……僕が、何?」
    「言っとくが、今俺が言ったのは、未だ真相でも何でもない。全て想像と憶測の産物だ。
     ただ、お前も、俺と同じように考えたに違いないんだ。否定するか?お前は無意識下の元ロジックを組み立てたんだよ。
     そうして、それを探したい、見たいという欲求が、ノックの音になって意識下に現れたんだ」
    「なっ、な、おい、何でSにそんなことが分かるのさ」
    「お前に聞こえるノックの音は、俺には聞こえない。だとすれば、そいつはお前の中で鳴っている音だ。
     お前自身が脳みそをノックしてたんだよ」
    「そんなこと言ったって、僕は、この家の子が日光に触れちゃいけない体質だったなんて、初めて聞いたよ?」
    「数年前に、この事件が世間で話題になった時、そのくらいの情報は流れただろうな」
    「し、知らないし、見てないし、覚えてないし」
    「覚えてなくたって、ちらりと見やっただけの情報も、脳みそはちゃんと保存しているもんだ」
    そんな馬鹿な、と言おうとしたけれど、それより早くSが口を開く。
    「じゃあ聞くが。お前、この家に入ってから、ノックの音は聞いたか?」
    その言葉に僕は絶句する。
    確かにそうだ。この家の中に入ってから、それまで僕を誘導していたノックの音はぱたりと止んだ。
    まるで、その役目を終えたかのように。
    「その音の役割は、お前を、親子二人の死体がある『らしい』この家に連れて来ることだ。
     ここまでは無意識下で組み立てられても、肝心な死体がどこにあるかなんて分からないからな。誘導しようがないのさ」
    僕は目を瞑り、後ろの壁にもたれかかる。身体から、どっと力が抜けてしまったようだ。
    Sが小さく笑って、僕の肩をたたく。
    「もう、ノックが聞こえることは無いだろ。ま、喜べよ。Kにいい土産話が出来たじゃないか」
    全く慰めになってない。僕は力なく笑った。
    それは結局、僕は自身の思い込みに従い、大きな大きな無駄足を踏んだということだ。
    「帰るか」というSの言葉に、僕は黙って頷いた。
    トボトボとSの後ろをついて家を出ることにする。
    当初、ノックの主に呼ばれているだなんて思っていた僕が馬鹿みたいだ。
    それでも。と頑張って思い直す。
    今日の体験が、非常に不思議で、なおかつドキドキワクワクして面白かったことは間違い無い。
    ノックの音に誘われて、僕はこんなところまで来てしまい、
    そこで起こった事件の裏の一面を、少しでも垣間見たかもしれないのだ。
    まあ、良い体験をしたと思おう。

    玄関のある部屋まで戻る。Sはもう靴を履いて外へ出ていた。
    これから、あの外した玄関の戸を元に戻さなくてはいけない。立つ鳥跡を濁さずってわけだ。
    その時、ズボンのポケットの中で携帯が振動した。電話だ。誰だろうと思い取り出してみると、それはKからだった。
    少し早めに恥ずかしい土産話を披露することになるのだろうか。
    一人で苦笑いしながら、僕は外に居るSに「Kから電話」と伝えて、玄関の段差に座り、通話ボタンを押した。
    『よおー。俺だ。昼に電話くれてたけどよ。何か用かー?』
    どことなく陽気なKの声。
    「え?K、まさか今起きたん?」
    『わりーかよ』
    確か時刻はもう五時に近いはずだ。
    「遅いよ。何時だと思ってんだよ、もう夕方になるよ?」
    『うっせーなー。何だよ。ソッチの要件は何だったんだよ』
    う、と言葉に詰まってしまう。Sの方を見ると、そっぽを向いて欠伸をしていた。
    「……ノック」
    『はぁ?』
    「ノックだよノック。そのノックのせいで、精神的にもノックアウトしちゃってさ。もうまいっちゃってさ」
    やけくそになって、僕は床を拳で軽くコンコンコンコンと叩きながら「あはは」と笑う。上出来な自虐ギャグだ。
    自分でも可笑しかった。可笑しくて笑う。床を叩いて笑って、そして僕は笑うのを止めた。
    電話の向こうでKが何か言っている。でも、何を言っているのかまるで聞こえない。
    床を叩く。
    コンコン。
    もう一度、違う場所を。
    コンコン。
    立ち上がって、携帯を切った。
    外と室内を繋ぐ四畳半程の部屋には、カーペットが敷かれている。
    最初に入って来た時も見た、渦まき模様の丸いカーペット。僕はその端を持ち、少しめくってみた。
    カーペットの下は板の間で、そこには半畳程の大きさの正方形の扉があった。
    心臓が音を立てて鳴っている。頭の中を様々な思考が飛び交っているのに、何も考えることが出来ない。
    それは、取っ手の金具を引き出して上に持ち上げるタイプの扉だった。この先に何があるのか、何の扉かもわからない。
    手を伸ばして、扉を叩く。
    コンコン。
    それは僕が今日、今まで聞いてきたノックの音と全く同じ音だった。
    どうしてだろう。どうして僕は、『この音』 を聞くことが出来たのだろう。
    先程Sが言ったことが正しければ、僕は僕が聞いたことが無い『この音』 を創り出せたはずがないのだ。
    ……コンコン。
    僕は叩いていない。
    それは今まで聞いた中で一番弱々しかったにも関わらず、一番はっきりと聞こえたノックの音だった。
    決して脳内で創り出した音なんかじゃない。僕の鼓膜は確かにその微弱な振動を捉えていた。
    扉についている金具を引き出し、僕は扉を持ち上げる。
    かなり重かったけれど、ゴリゴリと音を立てて、扉の下からゆっくりと、まるで井戸のような黒いうろが姿を見せた。
    据えた匂いと、ひやりとした空気が、穴から立ち上る。背筋がぞくりとして、全身に鳥肌が立った。
    扉を落としそうだったので、裏側にあったつっかえ棒で固定する。
    「……何やってんだ?」
    いつの間にかSが、玄関からまた家の中に入って来ていた。
    僕は返事もしないで、扉の奥の穴を見つめていた。
    「そいつは……、たぶん、芋つぼだろうな」
    「芋つぼ……?」
    「その名の通りだよ。芋を保存しとくために、地下に掘る天然の土蔵だ。古い民家なんかにはたまにある。
     ……というか、お前これどうやって見つけたんだ?」
    Sの話を聞くでもなく耳にしながら、僕は穴の奥から目が離せないでいた。
    「……Sさ、車の中に、懐中電灯ある?」
    少しの沈黙の後、Sは「あるぞ」と言った。
    「それさ、取って来てくれない?」
    Sは何も言わず黙って車へと向かった。

    しばらくして戻って来たSの手には、二本の懐中電灯が握られていた。
    玄関先から、その内の一本を僕に投げてよこす。
    「ありがと」
    ちゃんと光がつくかどうか確かめて、僕は再び穴に向き合った。
    そっと光の筋を穴の奥に這わす。
    思ったより穴は深いようだった。三メートルほどだろうか。
    木の梯子がかかっていて、下まで降りたところで横穴がまだ奥に続いているらしい。
    横穴の様子は、ここからでは窺えない。
    何故か迷うことは無かった。僕は穴の中に入ろうと、扉の縁に手をかけた。
    「おい」
    Sの声。僕は顔を上げる。
    「数年間放置されてたんだ。梯子が腐ってることもある。気をつけろよ」
    「……OK」
    梯子に足をかける。最初の一歩を一番慎重に。腐っている様子は無い。二歩、三歩と、僕は芋つぼの底に降りてゆく。
    頭まで完全に穴の中に入ったところで足元が見えなくなり、あとは完全に感覚で梯子を下った。
    しばらくすると、足の裏が地面の感触を掴む。芋つぼの中はかなり寒かった。
    湿気なども無さそうで、なるほど、と思う。食料を保存しておくには適した場所だろう。
    スイッチを入れっぱなしにしていたライトをポケットの中から出す。そうして僕は、ライトの光をそっと横穴に向けた。
    あの時の光景を僕は一生忘れない。
    暗闇の中、足元からすぐ先に、一枚の茶色く変色した布団が敷かれている。
    その上で一組の親子が、互いに寄り添う様にして静かに眠っていた。
    掛け布団の中から二つの頭だけが出ている。きっとあの見えない部分では、母親がわが子を抱きしめているのだろう。
    僕はライトの光を向けたまま茫然と立ち尽くしていた。
    それ以上、一歩も前に進むことが出来なかった。
    足やライトを持つ手が震えているのが分かった。恐怖では無い。ただ、身体が震えていた。
    息をするのも辛くなって、僕は二人に背を向けた。
    その時、初めて自分が泣いているのだと知った。嗚咽もなく、ぼろぼろと涙だけがこぼれた。
    涙は熱く、頬に熱を感じる。
    怖くは無い。悲しくもない。感動しているわけでもない。よく分からない。
    ただ、強いて言うなら、『痛いから』 だった。
    自分の中の芯の部分が、ネズミのような何かに集団で齧られているような。そんな気分だった。
    頭上からライトの光が降って来る。Sだった。自分が照らされていることを知り、僕は俯いて涙をぬぐった。
    身体の震えはいつの間にか消えていた。
    梯子をつたって上へと上る。
    震えは止まったけれど、思うように身体が動かず、えらく時間をくった上に、最後はSに引っ張り上げてもらった。
    Sは何も言わなかった。僕が落ち着くまで待つつもりなのだろう。
    ふと玄関の方を見やると、家の中を隠すように戸が玄関に立てかけられていた。
    「ごめん……。もう大丈夫」
    そして、僕はSについ先ほど見てきた光景を話した。
    「そうか」
    Sの感想はただそれだけだった。
    僕はずっと考えていた。それは、僕がどうしてあの二人を見つけることが出来たかについてだった。
    偶然だったのか。または必然だったのか。僕が無意識下でまたやらかしたのか。
    それともあの二人に、もしくはどちらかに、呼ばれたからだろうか。
    答えは出なかった。
    僕はポケットから携帯を取り出す。
    「止めとけよ」
    その次の行動を見透かしたようにSが言った。
    「……何を?」
    「警察に通報するつもりだろう」
    「……そうだけど。どうして?」
    「俺が警察なら、お前を真っ先に疑う」
    その口調には何の力も込められていおらず、ただ、いつも通りのSの言葉だった。
    「あの二人をここに閉じ込めて殺した犯人としてな。
     ノックの音が聞こえたんでそれで来ました、なんて言ってみろ。それこそ、精神異常者として扱われるのがオチだ。
     まあ、色モノが大好きな世間様には気に入られるだろうが」
    「それじゃあ、公衆電話から……」
    「そんな電話、こちらから名乗れない以上、イタズラと思われて終いだろう。警察はイタズラ電話多いからな」
    「じゃあ、どうすんのさ……、だからって、このままにしとくわけにはいかないしさ」
    すると、Sはゆっくり息を吸って、こう言った。
    「何がいけないんだ?」
    それは予想もしなかった言葉だった。
    「何がって……」
    「俺は別に良いと思うけどな。このままでも。親子水入らずで過ごせるんだ。別に悪いことじゃないだろ」
    僕はあの二人の姿を思い出す。二人で寄り添い、一つの布団に入って眠っていたあの姿を。
    ここで親子の居場所を外に教えることは、あの二人の間を裂くことになるのではないか。
    何故いけないのか。そうだ、何故いけないのだろうか。
    僕は答える。
    「……やっぱり、駄目だ。知らせよう」
    病弱な息子を守りたい、危険から遠ざけたいとした母親。でも、息子の方からすればどうだったのだろう。
    生きている頃も、窓の無い部屋でずっと母親に守られ、死んでからも、こうして母の手に抱かれている。
    「あのさ……、性懲りもなくって思うかもしれないけんど……。
     僕が聞いたノックの音って、あの男の子が僕を呼んだんじゃないか、って思うんよ」
    芋つぼの扉を叩いた、弱々しくもはっきりとしたあの音。あれは『外に出たい』意志の表れではないだろうか。
    「あの子が生前、病気で思うように外に出られなかったとしたら。
     死んで身体から離れた今だから、自由にしてあげたいじゃない。
     ……でも、あれだけ母親に大事に抱え込まれてたらさ、それも出来ないんじゃないかなぁって……
     だから、何と言うか、お母さんの方も、子離れしないといけないのかなぁ、てね?」
    最後の方は、何か言ってて自分で恥ずかしくなったのだけれど、Sは黙って聞いてくれた。
    そして「ふー」と、欠伸ともため息ともつかない息を吐くと、
    「親の心子知らず、されど子の心親知らず、ってか」と小さく呟いた。
    「分かった。好きにすりゃあいいさ。
     ただ、直接警察に言うのは止めとけよ。見知らぬ親子のために、色々犠牲にすることは無いからな」
    じゃあ、一体どうすればいいんだろう。
    そんなことを思っていると、いきなりSが立ちあがり、未だ開いていた扉から穴の中に片足を入れた。
    「え?わ、何、どうすんの?」
    慌てる僕を横目に、身体の半分ほど穴に下りたSは一言、
    「まあ、任せておけばいい」と言って、さっさと降りて行ってしまった。
    穴の下を覗きこむも、Sが何をしているのか分からない。というよりも、Sはあの空間に居て平気なのだろうか。

    しばらくして、Sが梯子を上がって戻って来た。
    やはりというか、当然だけれど、その表情には動揺が見えた。でも、僕ほど取り乱した様子もない。
    「流石保存用の土蔵だな。イモだけじゃなくて、人間も保存できるのか……」
    それから、Sは携帯の写メを使って色々家の中を取り始めた。
    あっちの部屋に行ったと思ったらこっちの部屋に行き、芋つぼの様子を真上から撮影して、
    最後に外に出て、家全体の様子を映して、ようやく何かが終わったらしい。
    「さて、もう良いだろ。おい、外した戸を元に戻すから手伝え」
    二人で二枚戸を元に戻す。
    外すことが出来たんだから、戻すのも簡単だろうと思っていたのだけれど、
    それは間違いで、思ったよりも時間がかかってしまった。
    ようやく戸が元に戻った時には、もう時刻は午後五時半を過ぎていた。
    カラスの鳴き声と共に、辺りが段々と暗くなり始めている。
    Sが家に向かって一礼した。僕も倣う。
    そうして、僕らは未だ一組の親子が住む古民家を後にした。

    「帰りに、ちょっとネカフェに寄ってくぞ」
    車に戻りながらSが言った。
    「Sさ……大丈夫なん?眠いんじゃない?」
    「大丈夫だ。さっきのを思い出しさえすれば、眠気は飛ぶからな」
    そういうSの表情からは、冗談かそうでないかの判別がつかない。
    ふと、そう言えばKの電話を切ってから、携帯の電源をOFFにしていたことを思い出す。
    電源を入れると、着信履歴にKの名前がズラリと残っていた。電話するのも面倒くさいので、メールを一通入れておく。
    『約四時間か五時間後にそっち行くよ。尚疲れたので、帰るまで電話もメールも受け付けません』
    そして再び電源を切った。
    車に戻る頃には、陽は西の山に全部沈んでいた。夕焼けの残りが、オレンジ色の光を僅かに空に留めていた。

    「それで、ネカフェに行って何すんの」
    帰りの車の中、僕はSに尋ねる。
    「別に……大したことじゃない。ただ掲示板上に、写真を織り交ぜて、体験談風のウソ話を投稿するだけだ。
     もちろん、過去に起こった誘拐事件の概要、不法侵入の場面や、死体を発見した場面は真実を添えてな。
     後は勝手に親切な有志達が、警察に通報してくれる」
    「……写メ撮ったの?」
    「肝心なとこは撮ってねえよ。そんな気も起こらなかったしな」
    「……大丈夫かね。その文章と写真、直接メールで警察に送った方が早いんじゃない?何か余計な話題にもなりそうだし」
    「別に評判を貶めようってわけじゃないんだ。それに、メールで通報ってのは、ネット上の犯罪行為に限られてくるからな。
     心配しなくても、ちゃんと警察まで届くよう、別の手も打っとくさ」
    「何なん、別の手って」
    「そのうち分かる」

    そのまま僕とSは帰り道の途中にあったネットカフェに立ち寄り、そこで軽い食事もとって、
    また自分たちの街へと車を走らせた。
    その際にSは何度かKとメールのやり取りをしていて、帰りに彼の家に寄っていくことになった。
    やっぱりと言うか、Sも相当疲れているらしく、運転中、何度も眠たそうに目をしぱしぱさせていた。

    Kが住む大学付近の学生寮についたのは、午後十一時頃だった。
    Kはどうやら僕らが来るのを待ちかねていた様で、
    僕らが部屋の扉の前まで来ると、ノックをする暇もなく戸が開いて中に引き込まれた。
    「うおおっ、お前ら見ろお前ら!昨日行った児童誘拐事件の現場がすごいことになってんぞっ!」
    Kのテンションがすごいことになっている。
    そうしてKは、開いたノートパソコンの画面を僕らに押し付けて来た。
    そこには、数時間前にSがネカフェで作成したウソ半分本当半分の体験談が、もちろん僕とSの名前は伏せて載っていた。
    「いや、俺もSに言われて初めてこのスレッド知ったんだけどよ。いやあ、やべえなあこいつら。
     何かさ、扉壊してまで入ってさ。中で地下の隠し通路見つけてさ、さらに死体発見してやんの。
     しかもそのまま逃げ帰ってるしよ。あんまりなもんでさ、俺警察に通報しちゃったよ!マジで」
    ああ、なるほどな、と思う。別の手とはコレのことだったのか。
    興奮冷めやらぬKとは間逆に、Sは心底眠たげな目を、ぐい、と擦ると、
    「……おい、K、悪い、布団借りるわ。数時間寝る」と言って、部屋の隅にあった折りたたみベッドを広げると、
    ばたん、と倒れるように眠ってしまった。
    「何だよあいつ。ことの重大さが分かってねえぞ。
     ……いや、ってか俺さ、明日暇だからよ。も一度あそこに行ってみようかと思うんだが。なあなあ一緒に行こうぜー!」
    正直僕も眠たいのだけれど、がくがく肩を揺さぶられては仕方が無い。
    「……すくなくとも、Sは行かないと思うよ」
    「何でよ?いやまあいいや。そんなこともあろうかと、ちゃんと電車代とバス代いくらかかるか調べてあるから。
     片道四時間二十分。往復で五千円もかからないとよ、……ああ、アレだ、そう、片道2240円だとよ。往復で4480円」
    ん、何か聞き覚えのある数字だな、と思うけども、疲れて頭が上手く働かないので思い出すことが出来ない。
    「あれ……、そういや、お前ら、今日どこに行ってたんだよ?」
    その言葉に僕は思わず笑ってしまった。
    そうだった。そもそも土産話をしにここへ来たのだった。
    疲労でぼんやりとした頭を二度、コンコンとノックして、僕はこの元気な友人に一から語ってあげることにした。
    「いやぁ、今日の昼頃なんだけど、ノックの音がね……」

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    【全米が】なんか笑える霊体験3【テラワロス】

    『ある気配』
    501 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 04:07:14 ID:iOrzNmECO
    数年前の冬。
    仕事が忙しくて、帰ったのが夜11時近くだった。
    疲れから、そのまま布団に潜り眠りについたんだが、深夜2時か3時頃にある気配で目が覚めた。 
    寝ているベットと壁の間に↓こんなのが二匹踊っている。
    ヽ〇ノヽ●ノ
     ∥  ∥
    ノヽ ノヽ
    余りに馬鹿にした態度にムカついて、
    白い方の足をむんずと掴んだとたん、奴らはびっくりしたように固まり、数秒後に白い方から消えていった。


    503 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 18:20:35 ID:cvzzLTq70
    クネクネじゃん


    504 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 20:17:20 ID:iOrzNmECO
    >>503 
    俺自身も、後からくねくねかもと思っているよ。

    >>501の後日談があって、
    俺のお袋の前に件の黒い方が現れたらしい。
    その時は踊っていなくて、寂しそうに佇んでいたそうだ。
    俺が白い方を掴んだ為に、白い方に何かあったのかもしれん。


    『冬のある夜』
    505 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 20:48:55 ID:iOrzNmECO
    ついでに話を投下

    また冬のある夜の出来事なんだが、俺が寝ている部屋に見知らぬ女が入ってきた。 
    何だかにこやかに微笑み、全身が金色に輝いている。 
    よく見ると、足も動かさずに滑るようにして近づいてきたんだ。 
    しかし、俺は寝ているところを起こされるのが大嫌いだったので、輝く女にまたもやムカつき、 
    「誰か知らないがうざい、人が寝ているんだから出ていけ」と宣った。
    すると女はにこやかな笑みを浮かべたまま、またスーッと振り返りもしないで部屋から出ていこうとしていた。 
    その姿を目で追いながら、俺は追い撃ちをかけるように、 
    「寒いんだから扉は閉めて帰れよ」と言ったら、少しだけ眉をひそめて帰ってくれました。


    507 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 21:44:58 ID:XAsYiaTn0
    >>505 
    どう見ても、観音様か弁天様。
    ロト6くらい当ててくれそうだったのに。


    508 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 21:50:55 ID:G/vnRX8f0
    >>507 
    あれが弁天様だと知ったショックが>>505のIDに現れています。 
    orz


    『豪傑先輩』
    509 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 21:56:26 ID:rvqjMEIQ0
    >>505 
    見て思い出した。 
    当時いた会社の豪傑先輩は、独身寮のヌシだった。 
    先輩のいた棟は、『出る』噂もあった近々取り壊しの予定のあるところ。 
    ある時、先輩が寝ていると誰かの気配がする。 
    すると鍵のかかっていたドアにもかかわらず、部屋の隅に髪の長い女のようなものが立っていたそうだ。 
    ふつうはびびるところだけど、さすが豪傑、ゆっくりと立ち向かいながら、
    「ひ と の 睡 眠 を 邪 魔 す る な !!」と一喝してやったそうだ。 
    そいつはすーっと消えたらしい。

    何しろ豪傑で伝説をいくつも持っている先輩だから、
    その話をした飲み会の時も、実は幽霊とやっちゃったんでしょ?などさんざんからかわれたが、 
    話をする時の先輩が、いつになく無表情だったのが逆におかしかったのを覚えている。 
    つーか逆に、自分の行為を冷静に思い出してびびったのか? 

    >>507 
    ちょwww 


    『ラックの上』
    510 :本当にあった怖い名無し:2007/09/21(金) 22:16:41 ID:iOrzNmECO
    >>507>>508 
    弁天様だろうが観音様だろうが、人が疲れて寝ているのを邪魔しちゃいかん。 

    >>509 
    その先輩とは気が合いそうだw 

    俺も寮に居た時期があり、日曜の昼間にも関わらず部屋で過ごしていたんだ。 
    その時、壁際にラックを置いていたんだが、ラックの上に外人さんの首だけが浮いて見えた。 
    その首はゆっくりと回転していたんだが、俺と目があった瞬間回転を止めて、俺の目を見つめやがった。 
    何かよく解らなかったので、とりあえず首の横にあるコンポをリモコンで起動させてみたら、
    首は驚いたような顔をして消えたよ。 
    きっとリモコンを知らない時代の外人だったんだろう。 
    因みに寮は横須賀にあったんで、アメリカンかもしれん。


    511 :本当にあった怖い名無し:2007/09/22(土) 00:47:12 ID:DRCz8fy40
    >>510 
    ちょwwwwお前勇者ケテーイwwwwww 
    その外人ユーレイが少し気の毒なのはなぜだw


    512 :本当にあった怖い名無し:2007/09/22(土) 00:53:42 ID:MDx3VxHG0
    その外人のいる世界では、510(とリモコン)がオカルト現象として語られてるんだろうな


    『俺が映っている』
    513 :本当にあった怖い名無し:2007/09/22(土) 01:13:26 ID:9LBa5CZyO
    >>511
    いや勇者じゃないな。実際怖いと思った体験もあるし。

    >>512 
    そうだったら面白いかもしれんw 
    リモコン知っている世代と知らない世代で対立していたりなw 


    もう一個最近あった怪現象を。 

    テレビを消したりビデオに切り替えたりすると、画面が黒くなって自分が映るよな? 
    あの時はテレビを消してのびをしていたんだ。 
    ふと真っ黒な画面を見ると、俺が映っている。しかし、何かが違う。 
    よく見ると、映っている俺の目が洞穴のように真っ黒なんだ。普段だったら黒目と白目が判るのに。 
    その時、俺の脳裏に浮かんだのは、恐怖より喜びだった。
    まるで宇宙人(リトルグレイ)のような感じで、テレビに映る自分の顔で遊んでいたら、
    耳元で「ちっ!」と誰かが舌打ちし、同時にリトルグレイな目は普段の目に戻ってしまった。 
    俺が怖がれば、いつまでもリトルグレイな俺を見ている事が出来たかもしれん。

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    原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「なつのさん」 2011/03/27 17:37

    走行中の車の窓から外の景色を見やる。前方から後方へ。車に近いものほど早く、遠いものほどゆっくりと。
    約半日前にも通った道なのだけれど、状況は違う。
    あの時は陽が昇る前だったので辺りは暗く、車酔いのため後部座席で死体のように寝転がっていたKも今はいない。
    運転席の方から欠伸が聞こえて、僕は窓の外から視線をそちらに移す。
    ハンドルを握るSは、先程から非常に眠たそうだ。居眠り運転で事故されても困るので、何か話しかけることにする。
    「あんさあ、Kが昨日話してくれたこと。覚えてる?」
    「……誘拐事件の話か?ああ、大体はな」
    数年前。僕らが高校生の時に起こった連続児童誘拐事件。僕は覚えていなかったけれど、そこそこ世間を賑わしたらしい。
    真夜中。その事件現場である古民家の庭先で、Kは僕とSを前に、
    誘拐事件発生に至る経緯から、警察の捜査状況、どこで仕入れたんだというような情報まで熱く語ってくれた。
    「冗談半分に聞いてくれればいいけど。
     もしかしてさ。昨日、あんな話をKがしたから、僕の家にやって来たんじゃないか、って思うんよね」
    「何が」
    「さっきも言った、ノックの主」
    Sが欠伸をする。眠たいのか、馬鹿にされているのか。
    「いや、でも、そんなことのためにわざわざ悪いね。二度も。遠いのにさ」
    「ああ、全くだな」
    Sは心底面倒くさそうに言った。だったらあんなメール寄こさなきゃいいのに、と思う。
    ちなみに、ガソリン代として要求されたのは4480円だった。
    十円単位で要求してくるとは、ちゃんと残量をはかって計算したのだろう。キッチリしてるというか、何というか。
    「そういや聞きそびれてたな。お前、あの空き家に行ってどうするつもりなんだ?」
    「んー、まだ決めてないな」
    「……何だそりゃ」と前を向いたままSが呟く。
    実際に決めてないのだから仕方が無い。
    「もしかしたら、家の中に入ることになるかもね」
    前夜の段階では、事件のあった古民家を外から眺めるだけだった。
    現在、誰が管理しているのかは分からないが、
    窓にカーテンが掛かっていて中は見えなかったけれど、おそらく、家具はそのままにしているのだろう。
    ここの住人はあくまで行方不明扱いで、いつか戻って来るかも知れないのだ。
    「住居不法侵入だな」
    「分かってるよ。でもさ、それってさ。向こうの方からウチに来いって、『呼ばれて』 それで入ったとしても、罪になるんかな」
    「……お前がどういう場合を想定してるかは無視してだ。今回の場合では、なる」
    「あーそっかぁ」
    「大体どうやって入るつもりだ。玄関にはカギが掛かってるだろ」
    確かに。当然の話だけれど、昨日確認した限りでは、玄関のドアは鍵なしでは開かないようになっていた。
    侵入できそうな窓もない。一ヶ所だけ、内側から窓が塗り固められている部屋もあった。
    「ノックすれば開けてくれるんじゃない?」
    僕は冗談のつもりで言ったのだけれど、
    Sは今度は、確実に僕のことを馬鹿にしているのだと分かるような欠伸をして、こう言った。
    「……中に人が居りゃあな」

    それから数時間と数十分車で走って、僕とSの二人を乗せた車は、目的の古民家がある街まで辿り着いた。
    時刻は四時半を過ぎたところだった。
    昨日と同じ場所、少し離れた場所にある住宅街の一角に車を停める。
    「着いたぞ。ここからは歩いて行けよ」とSが言う。
    そうして彼はシートベルトを外すと、後ろにシートを倒して目を閉じた。
    どうやら、これ以上付き合う気はなく、僕が戻って来るまでにひと眠りするつもりなのだろう。
    しばらくしてSが目を開けた。
    「……何だよ。早くいけよ。場所は分かってんだろ?」
    怪訝そうに言うSを、「ちょっと待って、静かに」と制す。
    何か聞こえた気がした。
    ……コンコン。
    ノックの音。
    早く車から出ろと言っているのだろうか。
    「この音、聞こえる?」
    僕が尋ねると、Sは「……いや」と首を横に振った。
    「あーそっか……、これ、今日以降もずっと続くようだったら、やっぱ病院かなぁ」
    「おい……」と何か言おうとしたSを置いて車を出る。
    少し歩くと後ろでドアの閉まる音がして、振り返るとSがのろのろと大儀そうに車を降りていた。

    住宅街からしばらく歩いた、山へと続く細い坂道の脇に家はあった。ここに来るのは二度目だ。
    振り返ると、眼下に僕らが車を停めた住宅街が一望できる。
    近くに他の家の姿は無く、まるで仲間外れにでもされたかように、ぽつりとその古民家は建っていた。
    瓦屋根の平屋で、建物自体は相当古くからここにあるのだろう。
    昨日は夜中だったのでよく分からなかったのだけれど、所々に年季を感じる。
    ただ、窓の向こうに見えるカーテンの模様などは現代風で、つい数年前まで人が住んでいたという名残もあった。
    家自体の大きさは、親子二人だけで暮らすには少々もてあましそうだった。
    雑草の生えた花壇のある小さな庭を通り、玄関の前で立ち止まる。擦りガラスがはめ込まれた木製の二枚戸だ。
    「で、どうすんだ?」とSが言う。
    僕は戸に手をかけ、力を込める。当然のことだけれど、鍵が掛かっていて開かない。昨日の夜も確認したことだ。
    ノックの主が僕をここまで呼んだのなら……。という淡い期待もあったのだけれど、現実はそう甘くは無いようだ。
    しばらく無言のまま玄関を見つめていた。
    始まりは、僕の部屋の玄関から聞こえたノックの音だ。
    僕はその音に誘われて、四時間もかけて再度ここまでやって来た。運転したのはSだけど。
    玄関に呼び鈴等は付いていなかった。二度、軽くノックする。扉が揺れて、ガシャガシャとガラスが身悶える音がした。
    コンコン。
    中から返事があった。渇いた響き。僕がアパートの自分の部屋で聞いた音とまるで同じだった。
    たとえこの音が幻聴だとしても、僕はこの音に呼ばれている。それは確信できた。
    後ろに居たSの方を振り返る。
    「どうにかしてさ、この中に入れないかな」
    僕が尋ねると、Sは非常に面倒くさそうな表情をした。
    そうして投げやりな口調で、
    「……どうにかしたいんなら、入る方法なんていくらでもあるが」と言った。
    「どうにかしたいね」
    僕は答える。
    Sは肩をすくめた。
    「一応念を押しとくが、どういう形で入るにしろ。れっきとした犯罪だぞ」
    「今さら?」と僕は少し笑って返す。
    Sは少し上を向いて、「ふー」と小さく息を吐く。
    「……やれあの街に連れてけだのやれ扉を開けろだの。全くやれやれだな」
    嘆きながらSはドアの前にしゃがみ、戸の下部分、ガラスがはめ込まれている細い骨組の部分を掴んだ。
    「ん」と一声、力を込める。どうやら、襖を外す時のように、二枚の戸を同時に持ち上げようとしているらしい。
    鍵が掛かっているなら扉ごと外してしまえ、という作戦だ。
    そんな安易な力技で大丈夫なのだろうか、と僕が思った瞬間だった。派手な音がして、二枚戸が玄関の奥へと倒れる。
    扉が外れた。
    唖然としている僕を尻目に、Sは外した二枚戸を引きずって玄関の端によせると、
    「二枚戸で、立てつけの悪い家なら、こういう侵入方法もある。
     まあ、窓を割るのが一番手っ取り早いが、不法侵入に器物破損が加わるのもアレだしな」
    と何気もなく言った。
    何でそんなこと知ってんだと正直思ったけれど、聞かないことにした。

    戸の無くなった玄関から家の中を覗く。すぐそこは、四畳半ほどの板の間だった。
    一本の紐を渦巻状に敷き詰めたような丸いカーペットが、無造作に敷かれている。
    正面と左右にそれぞれ戸があり、各部屋へと繋がっているのだろう。
    「とっとと行って来い。人が来ないか見ててやるからよ」
    Sの声に背中を押される形で、僕はその一歩を踏み出した。
    「おじゃましまーす……」
    玄関で靴を脱ぎ、僕は一人中に入る。
    玄関の方からしか陽の光が届いていないせいか、意外と薄暗い。埃が舞っているらしく、鼻孔が少しムズムズした。
    しばらくじっと耳を済ます。けれども何も聞こえてこなかった。あのノックの音もない。
    何故だろう。自分で探せといいたいのだろうか。
    ふと、家の西側の部屋が、誘拐事件の際に子供たちの監禁に使われた部屋だということを思い出す。
    昨日鍵の有無と共に確認した事柄だ。
    内側から窓を塗り固めた部屋。そこへ行こうと僕は左手の戸を開いた。
    まっすぐな廊下が伸びてあって、三つほど扉がある。
    手前のドアから順に開けて確かめていく。物置。次いで客間だろうか、空の部屋。
    そうして残ったのは、一番奥の部屋。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。
    一瞬、ドアの隙間から暗闇が飛び出してきたような錯覚を覚えた。
    暗い。辛うじて、開いたドアから差しこむ光が、室内を僅かに照らしている。
    誘拐された子供たちは、ここで監禁生活のほとんどをすごしたのだ。
    部屋の中、ドア近くの壁に、明かりのスイッチらしきものがあったので押してみる。
    途端に温かみのある柔らかな光が室内に満ち、見えなかった部屋の様子が照らし出された。
    どうやら、電気は未だ送られているようだ。
    そうして僕はハッとする。電気をつけてしまって良かったんだろうか。まあしかし、やってしまったものは仕方が無い。
    部屋の入り口から見て、左手には大きなベッドと、
    天井に届くかという程の高さで、マンガ本や図鑑などがびっしり収まっている本棚。
    右奥にはいくつかのゲーム機器が並ぶ納棚があり、
    その上に、当時としては最新型だっただろう薄型テレビが置かれている。
    壁の方を見やると、クレヨンだろうか、全身真っ黒な人間を書いた落書きがあった。
    子供が書いたものじゃないかと推測する。
    その落書きの上、窓があると思われる部分が、周りの壁と同じ色の薄い板で覆われていた。
    窓がないという一点を除けば、ここで過ごすのに不便など何も無い、快適な子供部屋と言えた。
    天井には、電球に白い傘を被せただけの簡素な照明がぶら下がっている。
    「白熱灯だな」
    いきなり背後から声。
    比喩でなく心臓が弾け飛び散るかと思った。
    振り向くと、いつの間にかSが背後に立っていて、僕の肩越しに室内を覗きこんでいた。
    「あー、びっくりした……足音くらいたててよ」
    「勝手に入った見も知らぬ人の家でか?馬鹿言うなよお前」
    まるで正しいことのように聞こえるけれど、それはどうなのだろう。
    「……見張ってるんじゃなかったん?」
    「飽きたんだよ。……それにKの話をよくよく思い出してみりゃ、気になることがいくつかあったしな」
    入口付近に立っていた僕の肩をちょいと押し脇にどけると、Sは室内の丁度真ん中でぐるりと周囲を見回した。
    「お前は、どう思う?」
    突然のSの質問に僕は「え、何が?」としか返せなかった。
    「何がも何も、この部屋だ。気にならないか?」
    言いながらSはおもむろに、ベッドの下から何か箱を引き出してくる。
    「失礼」と言ってSが箱のフタを開けると、中には様々な種類の玩具が詰め込まれてあった。
    「あれもこれも、小さな子供の身分にしちゃ、少し贅沢過ぎるんじゃないか?
     まあ、一人っ子なんて大体こんなものかも知れんが。やっぱり、ちと過保護の気があるな」
    Sが何を言いたいのか分からない。まさか、自分の子供時代と比較して拗ねているのだろうか。
    「誘拐してきた子供のために買いそろえたんじゃない?」と僕が言うと、Sは首を振った。
    「全部じゃないかも知れんが、名前が書いてある。●●ってな。ここの子供の愛称だったか」
    玩具箱を覗きこむと確かに、一つ一つの玩具に『●●のもの』 と書かれたシールが貼られている。
    「ここで数人、Kが言うには四,五人だったか、の子供たちが、何日間か監禁されたんだったな」
    玩具箱のフタを閉め、元通りにベッドの下に戻しながらSが言った。
    確かにその通りなんだろうと僕は頷く。
    「おかしいだろ」
    「どこが?」
    立ち上がったSは部屋の中をぐるぐると色々見物しながら、僕の方は見ずに言った。
    「ここが監禁に使った部屋だとしたら、一人監禁して逃がした時点で普通バレる。普通ならな」
    それはどうだろうか。Sの言葉に僕は首をひねる。
    「……そうかな?」
    「子供は証言したんだ、『窓の無い部屋だった』 ってな。
     詳しく聞けば、警察も内側から窓を隠したってことが分かったはずだ。
     そうして、家を外からみりゃ、この部屋が窓を塗り固めてるってことは一目で分かる。
     つまり、傍から見ても犯行現場である可能性が大なんだよ、ここは」
    窓のない部屋が存在する家。同じ街で解放される行方不明だった子供。誘拐犯の女。
    被害にあった子供の証言とこれだけの要素があれば、容疑者を特定して逮捕に至るのは簡単だ。とSは言う。
    なのに何故か、事件は二度目ならまだしも三度目、四度目まで起こった。
    「たぶん警察は犯人が、子供たちが窓の外を見て景色を覚えるといけないから、窓を潰したんだと。
     その視点で捜査をしたんだろう。だから捜査が遅れた。
     それともう一つ、近所の住人から、この家の情報が警察に行かなかったのも、同じ理由だな」
    僕自身も、この部屋の窓を潰した理由は、子供に場所を特定させないためだろうと思っていた。
    大体、他に一体何の理由があるというのか。
    「光線過敏症」
    耳慣れない言葉がSの口から出て来る。
    「平たく言やあ、紫外線を受けると、人の何倍もの速度、深度で日焼けする体質のことだ。
     まあ、それを誘発する病気によって、症状はいくつかあるがな。
     ともかく、この部屋に『本来』 住んでいた子供は、それだったんだろう」
    「え……、や、ちょ、ちょっと待ってよ。何でそんなことが分かるのさ」
    するとSは天井を指差し、「白熱灯はな、光量が少ないわりに電気代が高いんだよ」と、良く分からないことを言った。
    「まあ、まだ他にも色々と根拠はあるが。
     別の部屋にいくつか本があってな。光線過敏症、またはポルフィリン症についての本だった。
     が、一番は、写真があったからな。黒い頭巾を被った子供の写真がな。
     ……ともかくだ。この部屋の窓が潰されたのは、誘拐事件が起こるずっと前で、
     なおかつ、周りの人間もそれを知っていたんだろうな」
    「その、光線過敏症ってことは、太陽の照っている時は、外に出られないの?」
    「そうだな。陽の光には当たらない方がいいからな。だから、部屋の中で不自由なく遊べるよう、色々買い与えたんだろ」
    僕はあらためてこの日光の差さない部屋を見やった。
    内側から潰された窓、まだ小さな子供に過保護な程与えられた本や玩具。
    もしかすればSの言う通りなのかもしれない。
    「……それが、Sの気になったことなん?」
    「気になったことの、一つ、だ。でもそれは、向こうで見た光線過敏症に関する本と、この部屋の白熱灯で大体確信できた。
     問題はもう一つ、その先の話だな」
    うろうろと見物しながら歩きまわっていたSが立ち止まり、僕の方を見やる。
    「光線過敏症である子供がだ。日光を避ける生活をしている子供が、行方不明なんかになるか?
     たとえ行方不明になったとしてもだ。未だに発見に至ってないのは、何故だ」
    「それは……、ただ単に行方不明になって、ただ単にまだ見つかってない……じゃ、駄目なん?」
    「こういった症状を持つ子供の、行動範囲がそれほど広いとは思えない。
     となれば誘拐、ということになるが、お前が誘拐犯だとして、黒い頭巾を被って顔も見えない子供を、誘拐しようと思うか?」
    「それは、分からないけど」
    「身代金の要求があったわけでもなさそうだしな。ただ単に行方不明なんだよ。ここの女が起こした事件と同じでな」
    「じゃあ、Sは、どう思ってんの」
    「俺は、」
    Sはそこでいったん言葉を切った。
    「……俺は、その失踪した息子が、いや、誘拐犯の女自体も、まだ、この家にいるんじゃないかと思っている」

    「『ノック 下』」に続く

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