1ヶ月ほど前でしょうか、職場の傍で交通事故がありました。日曜日のお昼のことでした。 
かなり大きな事故だったようです。その影響で道路は通行止めになり、客足はぱったりと途絶えてしまいました。 
稼ぎ時に起きた突然の事故に、私の職場(地方の観光地です)は大打撃を受けたので、よく覚えています。 

そして、ここからが先輩の体験談になります。 
その後、夕方になっても通行止めが解除されず、他の従業員さん達と「やけに長いね」と話している時、電話が鳴ったそうです。出たのは先輩でした。 
「すみません、落し物をしてしまったんですが」と、電話の相手は切り出しました。声から推測するに、年配の男性のようだと思ったそうです。 
落し物や忘れ物を探す電話はかなりの頻度であるので、先輩はいつもの調子で「何を落されたのですか?」と尋ねました。が、返事がありません。 
「あの、お客様?」と声をかけたところ、電話はぶつんと切れたそうです。 
不思議に思ったそうですが、ちょうど同じ頃に通行止めが解除され、足止めをくらっていたお客様が一気に押し寄せたため、あまりの忙しさにそんなことも忘れてしまったそうです。 
数日後、事故の詳細が知らされました。 
事故に遭ったのは50代後半の男性で、乗っていたバイクが転倒し道路に転がったところを、後続のトラックに轢かれて亡くなった、とのことでした。 
ここまでならただの事故なのですが、どうやらその男性は、トラックに轢かれた衝撃で、バラバラになってしまったようなのです。 
長く続いた通行止めは、何処かへ飛んでしまった男性の「一部分」を探していたために起きたことでした。 
その「一部分」は道路から少し外れた、林の中で見つかったそうなのですが、その時間というのが、ちょうど先輩が妙な電話を受けた頃……。 

電話の相手の「落し物」とは、一体なんだったのでしょう。 
単なる偶然や、タチの悪いイタズラなのかもしれないけれど嫌な想像をしてしまったと、いつも明るく気さくな彼女にしては珍しい、重々しく暗い表情で先輩は話を締めくくりました。